低糖質食生活のススメ

はじめに ~低糖質食との出会い

低糖質食

低糖質食

カロリー制限

カロリー制限

私たちのクリニックでは、食事療法・指導の主軸として糖質の摂取を控えた食生活をお勧めしております。

実は私たちのクリニックの前身であるみなみ野ハートクリニック開院当初は、食事指導として、ごく一般的な、通常のカロリー制限に基づく指導を行っていました。

メタボリック症候群が良くなっているかどうかの判定はなかなか難しいものなのですが、心臓リハビリテーション患者さんは定期的に冠動脈CTを行っていただいていたため、CTによる内臓脂肪の変化を評価することが出来ました。


定期的に運動に通っているし、食事とか薬とかも気をつけてもらっているから、当然内臓脂肪も減っているだろう、というわれわれ医療スタッフの思いと裏腹に、なんと半年経っても内臓脂肪があまり減っていない、メタボが改善していない、との惨憺たる結果を目の当たりにしました。


この事実を目の当たりにし、プログラムの見直し・改善を図るべく、スタッフで試行錯誤を重ねている経過で、低糖質食指導、という手法に出会いました。

はじめに ~低糖質食との出会い~

糖質制限で有名な、江部先生・夏井先生・山田先生など、名だたる著名人が執筆されている本を読み漁り、これだ、と確信を得ました。

ただ、いきなり患者さんに導入するのには躊躇があり、まずはこっそり自分達で始めてみました。大好きだったご飯やラーメンを、特に夜を中心に控えるようにするなど、そこまでストイックではないやり方で始めてみたのですが、するすると体重が落ち、2ヶ月で6kg程度の減量に成功していました。

ちょうどそのころ、クリニック内のスタッフにも(なんと院長先生までも)、糖質を沢山摂らない食事を試みている人が何人もいて、そのみんなが口をそろえてその効果を謳っている現状もあり、これといった健康被害や重度のストレスなどの有害事象の発生は認めませんでした。

これらの結果から自信と確信を得、心臓リハビリテーションを行っている患者さんに対する食事教育の一つの選択肢として糖質摂取を控える食生活指導の導入を行い、その効果や安全性について検討を行ってみました。その結果はあまりにも素晴らしいものであったため、ここでご紹介させていただきます。

検討

検討

※図1

糖質制限を行った患者さん群(糖質制限グループ:81名)と、糖質制限を行わなかった患者さん群(対照群:51名)の比較を行いました。皆さん、心臓リハビリテーションプログラムに参加されている患者さんで、CT検査によって計測される腹部内臓脂肪が100c㎡以上あった方です。

心臓リハビリテーション開始時と、それから約半年後の体重や腹部内臓脂肪、採血検査でわかる糖尿病や脂質異常の指標、また心臓の周りにつく脂肪である心外膜脂肪の量などについて比較検討してみました(※心外膜脂肪については後程詳しく説明します)。また糖質制限の弊害などとしてよく挙げられる腎機能障害への悪影響や体力低下が生じていないかどうかについても、前後の比較検討を行ってみました。(※図1参照)


なお、この時に行った糖質制限の指導は、糖質1日130g以内にしましょう、というかなり緩いレベルのものでした。また、130gというものも単なる目安程度のものとし、厳密に糖質の量などを量ったりすることはせず、例えば晩ご飯の主食は抜いて、その分おかずをしっかり摂りましょう、というような、アバウトな指導介入となっています。

結果

メタボリック症候群の改善を示唆する検査所見項目のほぼ全てにおいて、糖質制限グループのほうが改善しているといっていい所見を認めました。特に中性脂肪は劇的に糖質制限グループで低下していました。(※図2参照)

体重・BMIにおいては、対照グループが微増していたのに比べ、糖質制限グループではしっかり減量できていることが確認できました。(※図3参照)その内訳としても、腹部内臓脂肪の減少率は糖質制限グループの方が統計学的有意差をもって大きく、糖質制限が体重のみならず、体組成の質の改善にも有効であることが示されました。(※図4参照)

心臓の周りにつく心外膜脂肪は、糖質制限グループ・対照グループとも減少していましたが、糖質制限グループの方で減少率が大きい印象でした。(※図5参照)

また懸念された腎機能や体力に対する悪影響は認めませんでした。

※図はクリックすると拡大します。

内臓脂肪・心外膜脂肪について

近年、心臓の周りについている脂肪、心臓周囲脂肪の過剰な蓄積が、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患などの心臓疾患発症に影響を与える可能性が指摘されています。心臓周囲脂肪は正常な方でも存在しますが、この心臓周囲脂肪は、心臓を包む膜(心外膜)を境界とし、その外側に位置している脂肪を心膜外脂肪、内側に位置している脂肪を心外膜脂肪と呼びます。(※図6参照)

特に内側にある心外膜脂肪は直接、冠動脈に炎症性物質を分泌し悪影響を与え、狭心症や心筋梗塞発症のリスクになる可能性がある、と報告されています。

これはちょうど、おなかの脂肪が皮下脂肪と内臓脂肪に大別され、その性格が大きく異なることと似ています。皮下脂肪は脂肪が貯蔵される正当な倉庫に溜まった脂肪である一方、内臓脂肪は本来溜まるべきでない場所に蓄積している脂肪であり、多すぎる内臓脂肪はメタボリック症候群の元凶となり、様々な疾患の原因となるとされています。心臓リハビリテーションに参加されて、内臓脂肪が減ったケースをシェーマ③:(※図7参照)に示します。

内臓脂肪・心外膜脂肪について

※図6


内臓脂肪・心外膜脂肪について

※図7

内臓脂肪は、適切な運動療法や食事療法を行うことによって、比較的容易に減らすことができます。


この内臓脂肪のように、本来溜まるべきではない場所、しかもこの場合、心膜と心臓の本当に狭い限られたスペースに溜まったものが心外膜脂肪です。

心臓の筋肉や冠動脈に直接付着しており、心外膜脂肪が多いと、心臓の機能や冠動脈に悪影響を及ぼし、心臓疾患のリスクが上昇してしまう懸念があることについては、想像するに難くないところです。

内臓脂肪を見れば、その人のメタボリック症候群の管理の状態が良く分かります。

同様に私たちは、患者さんの心臓疾患の再発予防に対する取り組みがうまくいっているかどうかを、心外膜脂肪の量を計測し、その判断に役立てるよう心がけています。

看護師からの一言

看護師からの一言


糖質摂取を控えるという食事療法は、やり方さえ間違えなければとても簡単にでき、継続もしやすく、尚且つメタボの改善や、動脈硬化予防・心疾患予防にも大変有効な食事療法です。

八王子みなみ野CRCでは、看護師が中心になって、食事の相談にのらせてもらっています。

「何が何でも制限するんだ!」みたいな感じではなく、「糖質とはなんなのか?」「糖質を多く含む食材は?」「代わりに何を食べたらいいの?」など、興味のあるところから始めて、出来そうなところから取り入れていく、そんな気軽な感じでやっています。

皆さんからの質問などは、私たちにとっても良い刺激・良い勉強になります。

どうぞお気軽に何でも聞いてきてください。一緒に知識を深めていきましょう!

看護師からの一言

まとめ

今回の検討によって、糖質を控えめにする食生活が糖尿病の方にはもちろん、肥満の方、メタボリック症候群の方などに対して、大変有効である食事療法の一つであることが示されました。


さらに、糖質を適度に控える食生活は心外膜脂肪の減少をもたらし、心臓疾患の予防に対しても効果的であることが示唆されました。


もちろん、控えるだけでは不十分です。丈夫で健康な体を維持するため、血となり肉となり骨となる栄養であるたんぱく質・脂質はしっかり摂ることは、糖質を控えめにするのと同じくらい重要と私たちは考えています。


今後も八王子みなみ野CRCでは、心臓疾患の再発予防・健康増進のため、食事療法の手段の一つとして糖質摂取を控えめにする食生活を軸に、患者さんお一人お一人にあった食事バランスについてアドバイスできるよう心がけ、多くの患者さんの健康管理のサポートを行ってまいりたいと考えています。

ご興味・ご質問のある方はお気軽にスタッフまでお声かけください。

まとめ